前編のつづき



 無事に坂町駅まで辿り着き,終わったかに思われた米坂線ラリー.ところが帰宅して写真を編集しているうちに,1枚の写真にふと気づいた.そしてこれが私に「時期を見て」などという呑気に構える間もなく,すぐさま鉄路ラリー実行を決断させるに至った.実行は何と翌週・2009年6月20日のことである.
 そしてその1枚の写真とはこれだ.


同じ写真を再掲.この異変は撮影時に気づかず,編集時に気づいた.関係ないことだが,列車は向かって右向きへ走っている.



 羽前小松から犬川に到る途中で偶然撮影した写真.1度目のコメントで「大いに悩む」と書いたが,どこが大いに悩むのか.まず下のマップを見ていただこう.


快速を撮影したポイント.青丸の地点で矢印の方向を向いている.



 そして,参考までに磐越東線ラリーの写真を見ていただこう.


全面中央部に注目.



 同じ編成の前後を撮影したものであるが,右側の車両は全面中央部の貫通扉にフレームが設置されているのが分かるだろう.これは貫通幌と言って,車両連結時に車内を行き来できるようにするための器具である.そしてこの貫通幌はすべての車両に1つずつ,同じエンドに設置しなくてはならない.そうでないと,連結時に使用できなくなるからである.
 以下の2枚を再掲する.貫通幌に注目してほしい.




再掲.南米沢にて.手前が米沢方.




中郡にて.手前が坂町方.



 米坂線においては坂町方に貫通幌を設置しているのが分かる.では,改めて問題の写真を見てみよう.


青い矢印の部分に注目.



 この写真ではマップと見比べれば分かるように,向かって右側が米沢方であり,この列車には米沢方に貫通幌が設置されている.つまり貫通幌の設置エンドが逆なのである.
 そしてもう1つ,これも細かい話ではあるが触れておかなくてはならない.写真に映っているのはキハ110系気動車である.この気動車はJR東日本が独自開発した車両である.そして主な特徴の1つに「方向転換すると他の車両と併結できない」点が挙げられる.これは(厳密には間違った表現であるが)連結時の電気回路が一方向になっているため,方向転換すると他の車両と回路が繋がらなくなるからである.つまり,米坂線なら米坂線において,すべての車両が同じ方向を向いていなければならないのである.ということは,貫通幌も車両の決まったエンドに設置しなければならない.では何らかの事故で貫通幌の設置エンドを間違えてしまったのか?だが上の写真では貫通幌は正しいエンドに設置されている(これについては詳しい解説は省略する).
 結論として,上の写真では貫通幌の設置エンドは正しく,編成そのものが丸ごと反転しているということである.これではたとえ貫通幌を逆エンドに設置しても,車両そのものが逆向きになっているため,この編成は他の車両と併結できない.一体どこで反転してしまったのだろうか?



 随分とマニアックなことをくどくどと書き連ねてしまったが,この編成反転の謎を解明することも鉄路ラリーの課題とした.果たして反転は事故か,それとも必然的なものか.



 この日は前夜から雨であったが,天気予報では昼前には雨は止むと出ていた.ならば列車の運行に支障が出ることもあるまい.仙台9:13発「やまびこ」212号で福島へ向かう.


次の「やまびこ」46号でもいいが,福島での乗り換えが慌ただしくなる.




1号車に乗車.なんと1両を独占してしまった.




福島から「つばさ」105号に乗り換え.



 福島からは山形新幹線に乗り換え.久しぶりの乗車だ.なお米沢までは山形経由の方が(特急料金も合算すると)圧倒的に安いのだが,時間の都合でこちらのルートを選択した.
 それにしても山形新幹線は遅い.「ミニ新幹線」と言われる区間だが,「新幹線」と名乗るのもおこがましいと言えるくらい遅い.急勾配・急カーブが連続する区間が多いので仕方が無いが,はっきり言って快速程度の間隔だ.米沢−山形間40.1kmを35分,表定速度68.7km.東北本線や北陸本線の在来線特急よりも遅い.新幹線車両に乗っているのにこの遅さで,感覚が狂ってしまう.


ミニ新幹線対応のE3系.間違いなく新幹線車両なのだが・・・



 米沢からいよいよ米坂線に入る.米沢10:29発の1129Dで坂町を目指す.先週はちょうど中郡駅で遭遇した列車だ.ホームで待機していたのは偶然にもその時と同じ編成であった.キハE120-5+キハE120-6の編成だ.


初乗車となるキハE120型気動車.昨年デビューしたばかりの「新人」だ.



 とりあえず,行きは運転助士側の後部に陣取る.約2時間立ちっぱなしになるが,慣れているから平気だ.しかしこの日は保線区員が線路チェックのために運転助士側にいる.背中越しの撮影になるため少々邪魔になるが,今泉で降りることが最初から分かっていたので,そのまま平然とショットを収めていく.


南米沢.




西米沢.




成島.




成島から国道を見る.




中郡.先週はこの時ホームにいた.




羽前小松.




犬川.ここで親子連れがワンマン列車の勝手が分からずに運賃精算に苦労していた.バスと同じですよと助け舟を出せばあっさり解決した.




今泉.左側が米坂線専用ホーム.右側は山形鉄道専用ホーム.相互に行き来できない構造.



 順調に列車は進み,今泉に到着.平野部では線形がかなりよく,コンスタントに最高速度85km/hを出していく(車両自体は100km/h).
 そしてここで“あの”疑惑の列車と行き違うことになる.


アングルが悪いが,普通列車の快速「べにばな」.この日はキハE120とキハ110の編成だが,米沢方に貫通幌がある.



 やはり向きが逆である.貫通幌は米沢方についている.トイレの方向も逆だ(筆者が乗車している列車は坂町方にトイレがある).つまり編成が丸ごと逆になっている.ということは事故ではなく,必然的に逆になっているということになる.その原因はどこにあるのか.
 と,ここで脳みそに電球が点いた.そうか,そうだったのか.コロンブスの卵ではないが,答えが分かってしまえばなぁ〜んだというものだった.


新津,新潟,新発田のデルタ地帯.新津(車両基地がある場所)を基準とする.青い矢印が新津を基準とした車両の向き.
新津から羽越本線経由で新発田へ行く場合と,新潟・白新線を経由して新発田へ行く場合とで車両の向きが逆になる.



 快速「べにばな」は新潟発の列車である.つまり車両基地から新潟へ向かい,その後白新線経由で坂町へ向かうため,必然的に車両の向きが逆になってしまうのだ.
 ちなみに米沢へ到着した「べにばな」は,その後米沢−今泉間を1往復し,上り「べにばな」となって新潟へ向かう.もし羽越本線を経由してしまうと車両の向きが反転したままになってしまうので,必ず同じルートを引き返して新津へ向かう必要があるのだ.
 こうして最大の疑問は何ともあっけなく解決した.ということで,引き続き坂町を目指す.


今泉の坂町方.こちらは米坂線と山形鉄道が一旦合流.




旧白川信号所.現在はただの分岐点.左が米坂線,右が山形鉄道.



 今泉を出てしばらく進むと謎の分岐点にさしかかる.ここは廃止された白川信号所だ.ここが米坂線と山形鉄道の分岐点だ.廃止されたとはいえ,ここのポイントが正しく作動しなければ列車は正常に運行できない.管理所の建物は残っているが,無人である.
 実を言うと,これだけ見事に信号所跡が残っているとは思わなかった.そのため先週のラリーでは無視してしまった.これならここも訪れていればよかったと少々後悔.


萩生.




羽前椿.ここから山岳区間に入る.




手ノ子.徐々にカーブと勾配がきつくなっていく.



 段々と風景が変わっていく.田んぼの中を突っ切るように走っていた米坂線は,周囲を山で囲まれた区間に入っていく.カーブも勾配もきつくなり,思うようにスピードが出せない.キハE120は登坂能力は問題ないのだが,カーブでスピードを制限されてしまうので,60km/h程度が精一杯だ.


国道から羽前沼沢への入口.見覚えのある風景も鉄路上からだとまた違って見える.




羽前沼沢.ちょっとピンぼけ.




伊佐領.木々が生い茂る.




羽前松岡.




小国.かなり暑い.



 気がつけば天気は晴れ.駅に着いて出入口のドアが開くとモヤっとした空気が車内に流れ込んでくる.体感でも気温が25度を上回っているのが分かる.小国ではもうすっかり夏の雰囲気だ.山の中なので気温のあがり方も激しいのだろう.海沿いの坂町に着けば少しは涼しくなるか?


玉川口跡地.鉄路上の方が跡地がはっきり分かる.真上に国道113号線が走る.




越後金丸.買い物を終えたと思しき男性客が乗る.って,この周辺にはコンビニすら無かったはずだが??




越後片貝.




越後下関.ようやく平野部に入る.



 越後下関まで来れば再び線形がよくなり,列車のスピードが上がる.越後金丸でどこから仕入れたのか分からない買い物帰りの男性客が乗り,越後下関で降りていった.越後金丸周辺はスーパーはおろかコンビニすらないはずだが,どこでどうやって調達したのか疑問だ.
 さて,列車はラストスパートで坂町へ向かう.


越後大島.この踏切が国道290号線.



気が向いたので並走する国道113号線おにぎりをキャッチ.




花立駅跡地.左手にホームがあった.




坂町までの運賃表.駅名が線区別に色分けされている.




右手奥に架線が見えてくると終点坂町.羽越本線と合流する.




坂町駅構内を見る.左から順に1番線,2番線,3番線,4番線.1番線には架線が通っていないので米坂線専用になる.




坂町到着.



 遅れも無く12:25,坂町に無事到着.それにしても暑い.体感ではもう30度を超えているのではと思うくらいであった.この後13:33発の列車で折り返すので,あまりゆっくりできないが,国道7号線まで歩いてみた.昼食を調達しようと近くの商業施設に寄ってみたが大したものではなかった.結局駅前食堂でラーメンを1杯.
 さて折り返しはキハ110型の単行となった.ダイヤ改正まで単行は全くなかったが1往復だけ設定されたようだ.冷房がほどよく効いており,眠気を誘う.今度は素直に座席に落ち着く.日差しが強いのでカーテンを閉める人が多いが,鉄チャンには禁止事項だ.


帰りは1両.運転士は行きと同じ人だった.




今泉で下り列車,さらに山形鉄道の上下列車がやってくる.




羽前小松で逆向きの編成と行き違う.




一気に進んで米沢到着.この後のろのろ「つばさ」に乗り換え.




帰りもE3系だった.やっぱり遅い.



 帰りの「つばさ」はかなり混雑していた.自由席は立ち客で通路が塞がり,指定席のデッキにも立ち客がいるくらい.指定席券は持っていないが,立ちであれば指定席車両に入っても問題はない.わずか35分なので,素直に立つ.車外を見ると,東側に厚い雲がかかっている.列車が進むとどんどん日差しが弱まっていく.まさか仙台は雨?


「やまびこ」211号で仙台へ.「つばさ」と違いスカスカであった.



 「やまびこ」は1両に筆者を含めてたった2人.話し声すら聞こえない.それよりもどんどん空が曇っていく.仙台に着くとなんと雨.坂町の夏のような日差しと暑さが嘘のようだ.
 ちなみにこの日の新潟県村上市の最高気温は28.8度.13時の時点でも27.0度であった.一方仙台の最高気温は20.8度.正午にかろうじて20度を超えただけで,あとは20度を下回った.



 以上,2週がかりで米坂線ラリーも終了.駅数は少ないが見所はいっぱいあった.15年前,これだけのものを「寝ながら移動」で見逃していたとはもったいない.これまで乗りつぶしてきた区間も再び乗ることで新しい発見をすることがあるものだと思い知らされた.鉄チャンの道に終わりは無い.



こんどこそ

おまけ:資料集

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